( 雑誌『衆知』2017.1-2月号「松下幸之助 経営塾 講義録」掲載記事 : 株式会社PHP研究所 発行)
責任はすべて社長にあり
信念と覚悟で実践する「社員を大切にする経営」
...(以下[その1]より続く)
私どもはホールディング会社(JLCHD)を新たに設立してそこに社員が出資し、一切のファンドを入れずに、自己資本と銀行からの借入だけで日本レーザーを買収しました。
出資は正社員でも嘱託社員でも、あるいは新入社員でも定年後再雇用の社員でも、意欲のある人は誰でも可能としたところ、驚くことに希望枠の四倍もの申し込みがあり、急遽、資本金額を増やして再登記したほどです。
一方、借入で大変だったのは、JLCHDの借入金額一億五〇〇〇万円を返済するために、事業会社の日本レーザーが五年連続で八〇〇〇万円以上の経常利益を出さなければならないことでした。JLCHDへの年間三〇〇〇万円の配当を確保するためには、利益(税引き後の当期利益)を全額配当したとしても、経常利益は最低でも八〇〇〇万円必要だったからです。
それまで日本レーザーが創業して三十九年、八〇〇〇万円以上の利益を出した年はわずか二回。どれだけ難しいことかおわかりいただけると思います。
もう一つ、買収時に日本レーザーが抱えていた借入金六億六〇〇〇万円を誰が保証するのかという問題もありました。銀行の要求は、社長の個人保証です。家内に話したら「冗談じゃない」。当然です。結局、内緒でやりました(笑)。社長は腹をくくってやるしかない時があるんです。
結果的に、この手法は成功しました。独立後は業績が上がり、運よく円高が進んだこともあって借入金を順調に返済、日本レーザーは五年で実質無借金企業になりました。今では自己資本比率が五〇パーセントを超えています。
ここで一つ言いたいのは、MEBOをしたから社員のモチベーションが一足飛びに高まったのではないということです。日頃から社員のモチベーションが高まっていたからこそ、MEBOというチャレンジングなスキームに皆が出資をしてくれたのです。出資額の低い人でも二五万円、高い人では四~五〇〇万円。半端なお金ではありません。しかも皆、もっと出してもいいと言ってきたのです。
社員のモチベーションが高まっていたのは、社員の中に「会社から大切にされている」実感があったからでしょう。私は九四年に社長に就任した当初から、経営状態が思わしくない中でも、「社員を絶対にクビにしない」と言い続けていました。また、就任翌年には、兼任していた親会社の取締役を退くことを決意しました。親会社に籍を置き、戻る場所を確保した中途半端な立場にいては、社員がついてきてくれないだろうと思ったからです。退路を断った私の姿勢を社員は見てくれていたのだと思います。
まず社員満足を追求する
さて、会社の存在意義とは何でしょうか。私は、雇用の維持(保障)だと思っています。もう少し具体的に言うと、「人を雇用し、その人が働くことで得られる喜びを味わえ、仕事を通じて成長でき、企業という舞台で人生を全うし、自己実現が図れる」ことです。
当社のクレド(信条)の中には経営の原則として、「CSより先にES(お客様満足より社員満足が第一)」と明記しています。社員の成長が会社の成長であり、社員が会社や同僚、自分たちの供給する製品やサービスに満足しなければ、決してお客様を満足させることはできないと考えているからです。そう定義しておかないと、結局は金儲もうけのための事業になったり、社会貢献を唱えても社員の生活を犠牲にしてまで貢献することになってしまいます。
...(以下略)
※[その2] 全文は添付ファイルを参照ください※